商売をしていると、どうしても売上が最優先になります。

「売上はすべてを癒す」という言葉の通り、売上は頑張った証であり、利益の源泉でもあります。

たとえ血反吐を吐き這いつくばってでも前年の数値を超えたなら、経営者と働く者の温度差はあるにせよ携わった人たちには一応の達成感があります。

また利益は、その売上から売上原価と経費を引いて生まれてきます。 ベースとなる売上が大きければ、原価の低減や経費の削減がたとえうまくいかなくとも、なんとか最終利益が確保できるからです。

 

「売上シェア」は至上命題か?

このように、企業にとってその業種内の「売上シェア」というものは至上命題のはずです。

私が以前勤めていた会社も業界の売上順位には躍起になっていました。 同業他社をベンチマークすることに意味はあるのですが、売上そのものを意識することには違和感を感じざるを得ませんでした。

例えば、自動車業界。 為替の影響が大きく燃費偽証で揺れ、新しい技術の熾烈な競争、ましてやグローバル競争の中で勝ち残っていかなければなりません。

 

マツダに見る唯我独尊

ここ最近好調なマツダ。 「マツダはシェア拡大を目指さない!」とあるのです。

日経ビジネスオンラインでの連載をまとめた『仕事がうまくいく7つの鉄則』(フェルディナント・ヤマグチ著)から、
これを取り上げた記事を引用しますと、

「シェア拡大をめざさない=向上心がない」ということではない。マツダはシェアを取ることが企業の「目的」になることのリスクを知っているのだろう。 たとえば、他社の動きに合わせて同じような方向性の製品を世に出し、結果として価格競争に巻き込まれる、といったことだ。 マツダにも、過去に大幅な値引き策をとった結果、ブランドを毀損し、安売り会社のイメージがつくという苦い経験がある。

 マツダはシェア拡大路線から離脱し、独自の道を歩んでいる。 既存の「2%」の顧客が心から満足するクルマづくりを進め、他社とは「違う」ブランドを築く方針を固めている。

また、この中で、この7つの鉄則が示されています。

①「小さいことを恥じない」 ②「ライバルすらも褒めまくる」 ③「ブレない価値の基準を持つ」 ④「相手が喜ぶことを常に優先する」 ⑤「ほかの真似を決してしない」 ⑥「熱意だけではダメ。交換条件を必ず用意する」 ⑦「世の中の流れに簡単に乗らない」。

ここからもわかるように、独自路線を歩もうとする心意気が感じられます。

発表されたばかりの2016年3月期の売上高は、自動車8社の合計が約68兆9714億円です。
その売上高と8社内シェアの内訳は、
トヨタ(28兆4031億円、41.2%) ②ホンダ(14兆6011億円、21.1%) ③日産(12兆1895億円、17.6%) ④マツダ(3兆4066億円、4.9%) ⑤富士重(3兆2322億円、4.6%) ⑥スズキ(3兆1806億円、4.6%) ⑦三菱自(2兆2678億円、3.2%) ⑧ダイハツ(1兆6903億円、2.4%)
となっています。
売上高1位のトヨタは4位のマツダの8.4倍の規模なんですね。 富士重工はスバルとして独自の世界を創りあげていますし、スズキはインドで大きなシェアを取り、軽の国内市場をもう一度見直す時期に来ています。 ダイハツ工業は本年8月にトヨタの完全子会社になる予定です。 そして渦中の三菱自動車は、日産の支援を受け再建を図る運命となりました。

企業にとって、独自性を発揮し、コアなファンの心を掴んだなら業界順位はさほど問題にならないでしょう。 逆に4番手、5番手であっても、極めれば収益をも十分確保できる売上シェア以上の恩恵があるはずです。

 

しかし一方では、マツダへの懸念も指摘されているんですね。

スカイアクティブはより技術難易度が高く、コストも高い領域に挑戦が続く。 この結果、プレミアム化で正当化されたマツダ製品の上位価格帯シフトが続くものと推察される。 ところが、そういったマツダの高価格帯製品を正しく販売する流通サイドの改善は、日本や豪州を除けば随分と遅れているのが現実だ。 製販が噛み合わなければ多大なリスクとなろう。もっとも、大上段に構え、スケールの大きい経営判断を下すのも当社の文化。厳しく言えば、大企業病的な企業文化がもともと根付いてる。 現在の高評価に慣れてしまうと自信過剰に陥りかねない。 身の丈を超えた行動に踏み出しては、過去の過ちの繰り返しにもなりかねないのだ。

「我が道を行く」のはいいが、間違った意味での「唯我独尊」状態になるという懸念です。

どういうことなのかというと、
釈迦が生まれ落ちたときに言った「天上天下、唯我独尊」の本来の意味とは、
自分という存在は誰にも変わることのできない人間として、生まれており、この命のまま尊い。
という意味です。

現実の世界に置き換えると、人間の命の尊さは、能力、学歴、地位、名誉、財産などの有無を超えて、そのままで尊い『自分』を見だすことの大切さを教えている言葉なのです。

つまり、「マツダらしさを貫く」ことが本来の唯我独尊です。

 

大企業病的体質や実態と遊離した大胆さが、一般的に誤解されている意味での、「自分だけがすぐれていると自負すること。」というような思いあがった状態になるのではないかという懸念です。

素晴らしい企業であっても、独自路線を貫く会社が陥りやすいパラドックスです。

 

マツダがいう「らしさ」とは、前述した7つの鉄則なのでしょう。

もう一度確認しますと、
①「小さいことを恥じない」 ②「ライバルすらも褒めまくる」 ③「ブレない価値の基準を持つ」 ④「相手が喜ぶことを常に優先する」 ⑤「ほかの真似を決してしない」 ⑥「熱意だけではダメ。交換条件を必ず用意する」 ⑦「世の中の流れに簡単に乗らない」 です。

 

「らしさ」を貫くことで業界に生き残れるか?

この命題については、迷わず「生き残れる」と言えます。 ただし、前提条件がつきます。

それは、「業界内や業種内で『売上シェア』を意識しないという前提」です。

そして、「顧客、ファンに向かった自分らしさの追求」ではないでしょうか。

 

次に、この顧客、ファンに向かった自分らしさについて考えてみたいと思います。

 

顧客の価値観と自分らしさの価値観を共有できるか!

小売業の世界では、「カテゴリーキラー」という業界用語があります。

カテゴリーキラー(英: Category killer)とは、家電や衣料品など、特定の分野(カテゴリー)の商品のみを豊富に品揃えし、低価格で販売する小売店業態のことをいいます。 このカテゴリーキラーが進出すると、商圏内の総合スーパーや百貨店は売上シェアを徐々に奪われていきますから、そのカテゴリーの取扱を縮小もしくは撤退に追い込まれていくわけです。 ですから、カテゴリーキラーなんですね。 近年では「パワーセンター」と呼ばれる、異業種の複数のカテゴリーキラーで構成されたショッピングセンターも増加しています。

昔、日本に「トイザらス」が上陸したときは、玩具のカテゴリーキラーともてはやされたものです。 それに家電量販店もそうです。 爆発的な成長を遂げ、シェア争いを繰り広げ飽和状態になると、淘汰が始まり、かつての売上ナンバーワン量販店が競合企業の傘下で生きながらえるという現在です。

衣料品では、グローバル企業にまで成長した「ユニクロ」をブランドに持つファーストリテイリングがあります。 順調に見える同社も規模拡大後、国内・国外を含め不透明な状況は続いていくでしょう。

最近では、「ニトリ」の鼻息が荒いですね。 会長自らTVへの露出度が高いですし、自社製品の品質を執拗にアッピールしています。 話題性の提供、つまりPR戦略で会社を売っていこうとする会社ですから、そもそもの商品価値よりもイメージが先行している感があります。 しかし、その努力を怠らない姿勢は感じられますので、まだまだ成長の余地はあります。

このカテゴリーキラー、一時は時代の寵児ともてはやされるのですが、必ず栄枯盛衰が伴います。
それは時代が変化するからです。 時代が変化すると顧客の行動や思考も変化するからです。

 

カテゴリー・デザインという考え方

先ほどのカテゴリーキラーと似たような言葉ですが、最近「カテゴリー・デザイン」という言葉が出てきました。

カテゴリー・デザインとは、既存のカテゴリーの中で勝負することを避け、新しいカテゴリーを他社に先駆けてつくり出すという戦略です。

似て非なるもので、「新しいカテゴリーを他社に先駆けてつくり出す」というところがミソです。

 

例として挙げられているのが、GoogleやFacebook、Amazon、IKEAなどです。

これら企業は、グローバルで勝者となっていることを指し、「カテゴリー・キング」とも呼ばれています。

 

しかし、この意味でいうと、2005年に日本でも刊行された「ブルーオーシャン戦略」の考え方によく似ています。

どんな戦略だったかというと、競争の激しい既存市場を「レッド・オーシャン(赤い海、血で血を洗う競争の激しい領域)」とし、競争のない未開拓市場である「ブルー・オーシャン(青い海、競合相手のいない領域)」を切り開くべきだと説いています。 そのためには、自分の業界における一般的な機能のうち、何かを「減らす」「取り除く」、その上で特定の機能を「増やす」、あるいは新たに「付け加える」ことにより、それまでなかった企業と顧客の両方に対する価値を向上させる「バリューイノベーション」が必要だとしています。

機能については顧客のニーズを見極めトレードオフ(何かを削って何かを増やす)を行い、顧客にとってさらに価値あるものにしていくイノベーションをしていくことです。

この世界を作れると対戦相手がいないのですから、手を挙げた企業は「不戦勝」で勝ち、つまり成功間違いなしなんですね。 ブルーオーシャンを泳ぎたいと誰しもが思ったものです。

 

Googleは、このインターネット時代に検索エンジンを特化させました。 設立が1998年ですから、まだ20年も経っていないんですよ。

ネット上を自動巡回するプログラム、「Googlebot(グーグルボット)」を開発したのが始まりです。 WEB上をクロールするロボットのことを総称で「クローラー」と呼び、このクローラーが独自のアルゴリズム(問題を解くための手順)で10億サイト以上といわれる世界のWEBサイト記事の順番づけをします。

これによって私たちが調べたいキーワードを検索窓へ入れると、関連する記事が表示されてくるんですね。 Googleの株式時価総額はなんと60兆円を超えています。 恐るべしです。

 

Amazonは、ネット販売でここまで大きくなった企業ですが、売上や利益よりも新しい投資に積極的です。

1994年に創業されたアマゾンに続けと1997年に日本では「楽天」が創業されました。 素晴らしい戦いはしているものの、Amazonの底力は半端ではありません。

インフラに投資するAmazon、物流の優位性がよく言われますが、最近では、「Amazonプレミアム」、この魅力が群を抜いています。 配送の優位性、動画の見放題、音楽の聴き放題、書籍の月1無料など複合されたサービスが、年会費4000円と比較して十分なるコアな顧客の満足度を押し上げています。

 

IKEAは昔、船橋ららぽーとに出店し、話題をとりましたが、1986年に一時撤退、その後2002年に再上陸しました。IKEAは、1985年のアメリカ進出でも文化の違いによる失敗を経験しています。

IKEAは海外市場で成功するために市場調査を徹底して行い、そのデータを製品開発に生かしています。 海外市場調査の他にも、徹底的なコスト削減による低価格を維持していることで、家具小売り業界は20年間にわたって痛手を負っていると言われるほどです。 SPA(製造小売)は、現在のニトリも同じ方法で中国やベトナムなどの工場で生産し国内で販売しています。

とにかく、低価格といいながら、「安かろう悪かろう」ではなく品質やデザインに対する姿勢を怠らないなど、そのブランド価値を棄損させない限り、支持されていくでしょう。

 

しかし、ユーザーや顧客というもは、時代とともに移ろっていくものですから、ずっと安泰かというと保証はできません。

日本の消費者がずっと「北欧家具のイメージが好き」でいられるのか、「ジャパンテイストへの回帰」はないのか、はたまた「新しいブランドイメージ」が創造されるのかは、誰も予想できないからです。

 

ただし、時代をつかむ努力を怠らず、顧客にそった新しい独自のフォーマットを開発できるなら、そこには「大きなチャンス」があるはずです。

これを考えると、成熟した業界であっても、今からの企業であったとしても、「売上シェア」を目指すことはずいぶん先のこととして、まずは「自分らしさ」を磨くことなんですね。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。