つい先日、欲しかった自転車を買ったんですね。

接客をしてくれた若者は、まだ人なれしていない様子で、こちらの意思を探るような声掛けでした。

しかし、若者のある一言で私は、数万円の買い物の予定が2倍の値段の買い物をしてしまったのです。 その一番のトリガーは、彼が私に商品を積極的に触らせ、オーナーになったときに感じる気分を十分に想像させてくれたからです。

|顧客を体感させ巻き込んでいく
|オーナーシップを掻き立てる

マーケティングの手法の中に、顧客へ「買ったような気にさせる」、「すでに所有者(オーナー)になったような気にさせる」という方法があります。

ダイレクトマーケティングのセールスコピーでも対面販売でも、この手法を使えば、売上げは数倍伸びると言われています。

これを体感した個人的なお話です。

まずは声掛けから顧客を探る

ときおり天気のいい日は、運動がてらサイクリングでもしたいと長年思っていました。 最近、車に乗ることの方がおっくうになり、なるべく歩こうとしているのですが、さすがに遠くまで足を延ばすには辛いです。 それじゃ、自転車を買ってみようと思ったんです。

自転車といえど、種類は様々。 スポーツタイプからママチャリまで、その用途によって違いがありますし、趣味や嗜好、それに自転車に対しての価値観という違いもあります。

選択のカギは、どのようなシチュエーションで利用するつもりなのかが一番重要でしょうね。 まずはそこからの声掛けです。

自転車屋さんをいろいろ回ったのですが、最終的に新しく「サイクルベースあさひ」がスポーツ車専門としてリニューアルオープンさせた博多千代店で購入しました。

サイクルベースあさひは、上場している全国展開の自転車専門チェーンです。 もともと大衆へ自転車をリーズナブルな価格で販売している会社です。 企業理念として「自転車ライフの最も頼れるパートナーとして、いつも(どんなときも)、いっしょに(お客様の目線に立って)、いつまでも(生涯にわたって)、お一人おひとりの自転車ライフを、もっと豊かなものに変えていきます。」とありました。

サイクルベースあさひから自転車を買ったので、そのあさひを褒めるというのがここでの主旨ではありません。 接客した若者(担当者)が、マーケティングにおいて効果のある手法を知ってか知らずか使用していたことを書いてみたいのですね。

けっこう頼りないお兄ちゃんからの接客、最初は当たり障りなく適当だったんですけれど、「このお客さん本気で買いそう」と思ったのでしょう、売場にある商品をひととおり説明してくれ始めました。

その会話の中から顧客が本当はどんな商品に興味があるのかを探る意図もあるでしょう。 また興味はあるけれど、今回買おうとしている対象は何なのかを知ることは大事です。

顧客からこれ下さい、と言われるのを待つだけの接客であれば、セールスは必要ありません。 どこに顧客のニーズがあり、本当はどこに満足を求めているかを探り出し、顧客をその気にさせられるかがセールスの醍醐味です。

|マニアックな話で興味を引く

私から買う気があることを見出した彼は、特徴あるメーカーやそのメーカーの代表的な商品の説明をしてくれるようになりました。

私はロードレースや自転車事情にそこまで詳しくないのですが、頼りない彼が活き活きと話し始めたのです。 自転車が好きだからだと思うんですね。

また、顧客がうなずいてくれるとなると、さらにテンションは高まっていきます。 顧客にとってそういう専門的な話はチンプンカンプンだとしても、「その商品を詳しく知っている」、「その商品を愛している」ということが顧客へ伝わります。

そこで、顧客はその販売員からのオファーに信頼感を得ることができるんです。

マニアックな話は相手に分からなくとも、信頼を勝ち得る手段になると感じます。

|顧客が抱える課題の解決

彼に、自転車の保管について尋ねました。

今住んでいるマンションには駐輪場があるんだけど、「盗難はどうだろう」と。

仮にママチャリであっても盗られるのは気分がよくありませんよね。 ましてや10万円前後もする自転車をすぐに狙われて盗られたりしても文句は言えません。

「盗難保険が付いていますので、1年以内であれば、購入価格の20%で同等品を買うことができます」とのこと。 だったら盗られてもいいかというと、これも悔しい。

そうなると、抱えてでも部屋へ入れるしかないでしょう。

ということで、部屋に保管する覚悟を決めたなら、安いスポーツ車で気分をごまかす必要はないな、と悟ったわけです。

これで一つ、顧客がかかえた問題解決です。

商品に触り、またがってみる

デザインや色で気に入ったレディース用と書かれたロードバイク。 これって男性が乗ったらダメなの? そう彼に質問してみました。

彼曰く、「スポーツ自転車は、身長や腰の高さ、ハンドルを握ぎるさいの腕の余裕など、人によって違いますからフレームの長さもそれに合わせた方がいいんですよ。」

「お客様の身長でこのバイクに乗りますと、前車輪との間隔が狭まりハンドルを切ったときに足先が触ったりして危ないんです。 極端な話ですけど、こども用の三輪車に乗ってペダルを漕ぐと、とっても窮屈でしょ。 そんな状態だと思っていただければ。」

私の身長を尋ね、サイズを確認しながらバイクを選んでくれました。 選んでくれたバイクのハンドルを握らせてもらい、その1台にまたがせてもらいました。

商品に触って、体感していくと、すでにロードバイクのオーナーになり切っています。 買うことのためらいよりも、乗っているときのイメージや街を走る楽しさを想像してしまうのですね。

でもセールスで商品を体感させることは重要です。 買う立場ならなおさらでしょう。

ロードバイクにまたがりながら想像しました。 街なみをゆるりとバイクで散策となると、この前傾は少し辛いな。 街乗りにもイケるクロスバイクにした方がイイかも。 体感することは、選ぶという判断をじゅうぶん以上に手伝だってくれます。

ここでも体験は、顧客の購買ハードルをもう一段下げました。

頼りないお兄ちゃん(販売員)からのキメの一言
オーナーシップ(所有欲)に訴えかける

最後のプッシュで顧客である私の購買心をくすぐったのが、
ビアンキは、私もあこがれの自転車でした。イタリアの老舗でロードスポーツ車といえばビアンキといわれるくらい、自転車好きには一目置かれてるんです。
という一言です。

価格とコスパで選ぶなら台湾のジャイアントですが、所有欲を満足させてくれるのはビアンキですね。

こう聞くと値段のハードルを上げてでも買いたくなるのが常套手段。 お兄ちゃんいい仕事しましたね。

顧客に話しかけるときは、あたかも相手がその商品を所有しているかのように話すことが大事です。 想像させることで所有することの満足感と自分の中での優越感が顧客に醸成されます。

おまけのエピソード

満足度が実務の頼りなさをもカバー

しかし、接客と実務の頼りなさは違うのでしょう。 レジに間違ったバーコードを読み込ませたのに気づき、クレジット完了後にいったん返品処理。 再度切り直し。 今度は、テールランプを入れてなかったということで現金でいいですか、と。 ここでは値引きを入れてくれました。 こちらは気分は絶好調ですから、「いいよ、いいよ!」で彼、大安心。

装着時に選択したテールランプが見えなくなるということで、今度は店長さんが申し訳なさそうに理由を説明してくれて、交換を促されました。 まあ、ここでもいい加減ではなくちゃんと対応してくれてるので「いいよ、いいよ!」です。 なんといいお客様でしょう。

買ったという大きな満足度が彼の小さいミスをも許してしまう、それほどオーナーシップを刺激し、買ったという優越感を顧客に抱かせることは効果があるのですね。

無料というちょっと嬉しいサービスの効果

タイヤの空気は2週間に1回くらいは入れてくださいとお兄ちゃん。 「お近くのあさひでいつでも無料で入れられますから」とサービスをアッピール。 整備を待っている間に、若者が3人、お爺ちゃんが1人、主婦が1人、約30分の間に空気を入れに寄っていきました。 そのうち、若者とお爺ちゃんは、何か部品を買っていましたね。

天井には5基のエアー入れが待機してます。 面倒くさがらず皆さん対応してました。 もうちょっと笑顔があればさらに素晴らしいのですが…。
マーケティング的にもこのサービスは重要ですね。

ということで、専門店はかくあるべきという実感でした。

|おまけムービー

Xperiaの写真動画をムービーメーカー使って「クロスバイク買った嬉しさの自作コピー」を盛り込んで記念に編集しました。 47秒で仕上がってます。

ここは自己満足の世界ですから飛ばしてけっこうですよ。 嬉しさ余ってこんなバカな客もいるよという例ですね。

<心理的トリガー06> 巻き込みとオーナーシップ
 『シュガーマンのマーケティング30の法則』より

 お客に話しかけるときは、あたかも相手があなたの商品を所有しているかのように話す。 お客の想像力をかき立て、購買プロセスへの参加意欲をそそる。

アクションステップ

 広告では、お客がすでに商品を使用しているか所有しているかのような表現を用いてみよう。 たとえば、「この手触りを感じてください」など「感覚」に訴えてみよう。

☑ 人的販売では、商品に関係するものを手に取る、チャンネルを回す、試乗する、タイヤを蹴飛ばすなど、お客に体験してもらおう。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。