2016年2月期決算を発表したユニクロと吉野家の数字を見て、「価格政策」や「値引き戦略」についておおいに考えさせられました。

値段を下げると、「安くなった」と歓迎され売上は伸びます。

前回触れたユニクロでは、冬物在庫処分という面はありながら「1月・2月に値引き販売を強化」したことで売上を無理やり回復させました。 その代わり、利益を落とすことを享受しましたが、ここでも「値引き」の威力を使うという手をとったわけです。

参考記事 ⇒ 値引き販売による減益のジレンマ、ユニクロや吉野家の決算

吉野家の価格戦略

吉野家は、昨年12月に価格を改定し牛丼の単価を上げていました。 単価上昇の影響もあり、既存客数が減少しています。 吉野家の牛丼が好きで毎日のように訪れる顧客も、来店を1回は抜くか別メニューで凌ぐことを考えるでしょう。

 

牛丼価格の推移を見ると、

懐かしい牛肉のBSE問題で販売を停止し、再開したのが2006年、その価格は380円。 これは牛丼といえば、今でも380円が相場という価格が頭にこびりついているんですね。

 

牛丼がずっと380円だったかというとそうではありません。

 

2013年の牛丼戦争では100円値下げして280円。 2014年4月の消費増税まで続けられ、同年4月1日からは20円値上げして300円としました。

しかし、2014年12月380円へ。 突如値上げを宣言するんですね。 80円値上げして、昔からある馴染みの価格である380円へ改定するというんです。 この時の理由が、「主要輸入国での干ばつ影響から出荷量が減少、一方でアジア市場での需要拡大から米国産牛肉価格が高騰している」ということでした。

 

ただし、後でも出てくる「牛すき鍋膳」は630円で価格据え置きという判断を下したわけです。

 

牛丼に関しては、値段を380円と、もともとの適正価格に戻すという感覚で顧客に受け入れてもらえるかもしれません。 しかし、牛すき鍋膳の改定は単純に値上げに写るでしょう。

思惑として、「牛すき鍋膳」に一部需要がシフトしてくれることを期待したのだと思います。

 

価格改定により客単価は13.9%増

2014年12月17日から牛丼300円を26.7%値上げの380円としたのですから、客単価が上がるのは当然です。 しかし実際は、牛すき鍋膳など価格を据え置いた商品もありますし、単価増となるような追加単品もそれほど期待できなかったということになります。 通期の客単価では13.9%増でした。

 

目玉である「牛すき鍋膳の販売減少」を挙げ、減益の大きな原因に使用をこだわっている「米国牛肉の仕入価格上昇」を挙げています。

 

ここで11月12月の暖冬の影響がでてくるのですね。 価格改定から丸1年が経過する12月、この肝心な時期に高単価の「牛すき鍋膳」が出なかったのは収益に響いたでしょう。 ここから今年1月まで前年比100%を切る状況が続きます。

 

威力を発揮する値引きクーポン

吉野家では以前から値引きクーポン券を配布してました。 増税前の牛丼300円のとき、50円引きクーポンを使うと250円で並丼が食べられたのです。 顧客にとってはありがたく、通う頻度は増えますよね。

 

リピートによる再来店につながるというので大いに効果がある施策です。

しかし、売上げ値引きですから一人当りの売上げは下がるんですが、これを来店頻度(来店回数増)で稼ごうということになります。

 

身近な例で計算してみると、

☑ 値引きクーポンがないとき、

来店が週に1回として380円の並丼を注文します。
月の売上げは、月4回来店で1,520円です。

☑ 50円値引きクーポンを配布して月の来店が2回増えたとしたら

月に6回来店することになりますから、(380円×6回)-(50円×5回)= 2,030円の売上です。

一人当たりの顧客売上げは、33.5%増となります。

 

1杯当りの原価を180円位と想定すると、通常での原価率が52%、値引き時では47%となります。 利益率は落としますが、額としては、通常では800円、値引き時では950円と利益額が増えることになります。

 

まあ、外食チェーンは1回でも多く来店してくれれば御の字なのですね。

ただし、この値引きクーポンを恒常的に発行すると来店を促す動機は薄れていきます。 いつでもその安い値段で食べれるということが保証されるからです。 「いつでも行けるや」という感覚ですね。

 

モバイル会員が優遇される訳

しかし、スマホなどで登録したモバイル会員なら優遇されるのは何故でしょう?

それは、何処の誰がいつお買い上げいただいたということがだいたい分かることで、マーケティングに利用しようというのが会社側の大義名分です。 まあ、本当にデータを利用できている企業は少ないのが現状ですが、顧客が登録していただいてるのだから「ファンを囲い込み出来てる」という企業側の安心感に過ぎません。

 

この分野に長く関わった私がこういうのもおかしいですが、ポイント発行プログラムやモバイル会員特典などは、長く続けるほど売上げへのインパクトは薄れていきます。

 

5倍ポイントセールや最近での20倍ポイントセールなどを見ても、値引きクーポンと同様の期待値しかないのです。 つまり、一時的効果しかないのですね。

ただし、会員に対して、常に刺激ある施策を投げ続けていくと、値引きクーポンやポイントセールは面白いように効果を発揮してくれます。 つまり、現場状況と連動したマーケティング戦略が重要なのです。

ただの販売促進として捉えていては失敗します

 

それは、企業がどう顧客と向き合っているかが問われ、どこまで顧客へ寄り添った便利で魅力的なものなのかを伝えなければなりません。 店舗や売り場においては、その意図が周知され、値引きクーポンの渡し方や接客用語が徹底され、ポイントプログラムに対する知識を十分に備え、その魅力を顧客へ伝えるまでになっておく必要があります。

 

要は、これら施策を全社的取り組みとして受け入れなければ、思ったほどの効果はないということです。

 

|吉野家のTポイントカード戦略

ここで、吉野家の2月15日から始まったTポイント開始の話にもどりましょう。

そもそもTポイントは、共通ポイントカードと言われるものです。 特定の企業だけではなく様々な業種で利用でき、ポイント交換機能も備えているというポイントカードです。

顧客からすると、「どこでも貯まる、どこでも使える、お得なカード」ということです。 Tポイント以外ではPONTAカードがあります。 最近では、ワオンが共通ポイントに名乗りを挙げました。

 

吉野家は、税込200円1ポイントですから、月6回で2,280円使う人は11ポイント貯まるという計算になりそうですが、ちょっと違います。

1回来店の精算金額は、380円ですから、1ポイントゲットで、6回来店ですから、合計6ポイントのゲットです。

計算時、200円に満たない端数は切り捨てですから。1回来店に1円貰ったということになります。

 

年間に72ポイント、この人はポイントゲットできますが、企業側は当然ポイントのコストを負担しなければなりません。 吉野家の年間売上高が発表された563億円で計算すると、Tカードの提示率(利用率)、平均販売単価、キャンペーン費用を考え、年間2億円弱を見込んでいると考えられます。

 

吉野家では10ポイント10円として精算時に利用できますから、他社で貯めたポイントで10円単位の端数を払うということで、顧客のメリットは多きいかもしれません。

ただし、コアな顧客は、精算時に待たされるんじゃないか、カード保持を聞かれることが鬱陶しいなど、戸惑いも多いのではないでしょうか。 それでも顧客にとってメリットの方が大きいのは間違いありません。

発行したポイントが自社で使われることが多ければ多いほどポイント負担は軽減されていきますので、導入のメリットを感じたのでしょう。

 

最後に打って出た「豚丼」復活

そこで登場したのが、4月6日からの「豚丼復活」です。

米国産牛肉問題で牛丼の販売を休止した2004年3月から販売していましたが、牛丼の販売再開や新商品投入もあり、11年12月で販売を終了していました。

この復活への挑戦は、2つの意味を持ちます。

一つは、値下げキャンペーンで実証したように吉野家には低価格を希望する顧客が多いという事実。

330円という低価格を定着させることによって安定的なリピートを期待するというもの。

もう一つは、何といっても原価率でしょう。 これを低減することによって利益を確保していきたいということです。

 

アメリカ産牛肉にこだわり続ける吉野家は、今後も米国牛肉の需給と相場に左右されます。 その不安定さを少しでも解消してくれる突破口が「豚丼」ではないでしょうか。

豚肉の産地は、2016年4月1日現在でハンガリー・カナダ・メキシコ・スペイン・フランスとなっています。 中国産は外れています

産地のバランスは良いと思います。 ただし、中国産の「玉ねぎ」を使用していることが少し気になります

 

今後の吉野家、模索しながらどこへ進む! 牛丼文化はやはり吉野家、期待してます。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。